2010年代の前半から始まった第二次キャンプブームにより、多くの方がアウトドアでのアクティビティを楽しまれるようになり、燃える炎の魅力が広く知られるようになりました。
自宅で炎を楽しもうとすれば、簡単なものならばキャンドルが、大掛かりなものならば暖炉か薪ストーブが候補に挙げられます。
建物の構造に組み込まれる暖炉に比べれば、分解できる薪ストーブは設置費用が掛からず、比較的お手入れも容易です。パーツの変更やシーズン毎の煙突掃除もしやすいですし、薪割りが辛い年齢になれば、ストーブごと取り外すことも可能。
また、薪ストーブは火力の調整ができるため暖炉よりも室温をコントロールしやすい、ストーブ本体と煙突が放射熱を発するので暖房効果が高い、煙が漏れないので室内の空気が汚れないといったメリットもあり、新築時に据え付けるだけでなく、リフォームの際に薪ストーブを設置される方も増えてきています。
今回は薪ストーブの魅力と設置にあたって気を付ける点、そして薪ストーブを導入された素敵な施工事例をご紹介します。
編集 平成建設
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目次
薪ストーブの魅力
薪ストーブ最大の魅力は、何と言っても屋内で燃える炎を楽しめるというアウトドア感。加えて、温風ではなく熱で空気を暖めるので室内が乾燥しにくい点、停電時にも暖房・調理設備として利用できる点など、インテリアとしてだけではなく、実用的な道具としても高く評価されています。
リラックス効果のある炎の揺らめき
薪ストーブは正面の扉が窓になっており、薪が燃える様子を眺めることができます。電気照明と燃える炎の違いは、光が揺らめくこと。木漏れ陽や小川のせせらぎのような自然現象の「揺らぎ」にはリラックス効果があるとされており、燃える炎のリズムも同様に心を癒してくれます。
輻射熱で身体の芯から温まる
薪ストーブはその構造上、遠赤外線で直接空気を暖める「輻射式」、ボディを二重構造にして内部を通る空気を暖める「対流式」、扉を設けず炎を直に見せる「開放式」、またはそれらを組み合わせたハイブリットタイプに分かれ、それぞれにメリット・デメリットが存在します。住まいのインテリアや暮らし方に合わせ、「我が家」にピッタリのデザインを選びましょう。
人気の高い輻射式ストーブ
ストーブ本体を高温にすることで遠赤外線を発生させ、輻射熱を利用して周囲にある空気や家具、身体をじんわりと暖めるのが輻射式ストーブ。天板が高温になるため、部屋を暖めながら料理をしたりお湯を沸かしたりすることが可能です。炎独特の身体の芯から温まる感覚や、柔らかい温かさが好きな方にお勧め。鋳物製のストーブは武骨ですが蓄熱性が高く、火を落としても暫く暖かいのが特徴。一方、鋼板製ストーブは熱しやすく冷めやすいのが特徴ですが、加工がしやすいため、大きなガラス窓を設けたスマートなデザインの商品が販売されています。インテリアに合わせて選びましょう。
大空間向けの対流式ストーブ
ストーブを二重構造にして空気の通る層を設け、暖気を循環させて部屋を暖めるのが対流式ストーブ。輻射熱が届きにくい部屋の隅まで温めることができるので、吹き抜けのような大空間を持つ間取りに向いています。空気を攪拌するシーリングファンとの相性も◎。ストーブトップ(天板)は輻射式ほど高温にならないので、天板を利用した料理はできません。
見映えの良い開放式のストーブ
火室がオープンになっている開放式ストーブは、暖房効率が良くない、薪を大量消費するなど、先に挙げた2つよりも性能面では劣りますが、インテリアとしての存在感は抜群です。一般住宅よりも別荘や商業施設などに導入されることが多いタイプです。
高温を利用した料理を楽しめる
輻射式の薪ストーブなら、高温になったストーブを利用して料理を楽しむことができます。
天板の温度はコンロに換算すると弱火程度(200~250℃)なので、シチューやスープなどの煮込み料理に適しています。部屋を暖めながらお湯を沸かせば、燃焼による輻射熱を最大限に活用することできますね。
一方、より高温になる炉内ではピザやパエリア、グラタン、ローストビーフなどを調理することが可能です。ただし、熾火状態(炎が落ち着き、薪や炭の芯の部分が赤く発光している状態)でも炉内は400~500℃に達しているため、通常のオーブンよりも遥かに高温である点に十分注意してください。ホーロー製品は変色してしまったり、剥げてしまうことがあります。
ストーブクッキングの人気が高まっていることもあり、最近は薪ストーブ専用のキッチンツールや、料理用の空間を設けた薪ストーブも販売されています。
電気に頼らない暖房・調理器具
東日本大震災以降や北海道胆振地方東部地震の経験を経て、大規模停電が発生した際の暖房・調理器具として、薪ストーブを検討される方もいらっしゃいます。近年は洪水や暴風などにより、日本各地で大規模停電が発生するケースも増えていることから、東北・北海道地域以外でも有力な暖房器具として注目されています。
薪ストーブのある家を検討する際に気をつけること
屋内で火を扱う薪ストーブは、法律で設置場所や設置方法について基準が設けられています。必ず住宅会社やリフォーム会社に相談し、安全に設置しましょう。
薪ストーブと間取り
薪ストーブの輻射熱は、大空間を温めることが苦手です。大きな吹き抜けがあるリビングルームや玄関土間、柱のない大空間LDKに設置する場合は、空間の規模に合わせた中型のストーブか、対流式のストーブがお薦めです。
また、メンテナンスや耐久性のことを考えると、煙突の設置場所にも注意が必要です。煙突を真っすぐ伸ばせるように2階の部屋を配置したり、煙突掃除がしやすいように住まいの一部を平屋にしたり、間取りを工夫しましょう。煙突を途中で曲げると、煙が逆流し内部にススが付着する原因になります。真っすぐに配置できない場合は、曲げる角度に注意してください。
薪ストーブを設置する際には、炉壁や炉台に不燃材を使う、壁面から一定の距離を確保するなどの要件があり、ある程度のスペースが必要になります。動線や家具の位置と調整し、部屋のコーナーに設置するのか、壁面に設置するのか、空間の中央に据えるのか検討しましょう。
また、薪ストーブはそれなりに重さがあります。リフォーム時に薪ストーブを設置するのであれば、床下補強が必要になる場合もありますので注意してください。
薪の調達と保管方法について
ストーブの燃料となる薪は、ホームセンターや通販で加工済みのものを購入するか、原木を入手し、自ら加工して調達します。勿論購入するのが一番楽で確実ですが、自給自足を楽しみたいのならば、原木の入手からチャレンジするのも面白いでしょう。
薪の材料となる間伐材や伐採木は、自治体や森林組合、造園業者が無償・格安価格で提供してくれる場合があります。自治体のサイトや情報掲示板を使い、地元の情報は常にチェックしておきましょう。
一般的に、広葉樹(ナラ・クヌギ・サクラ等)の方が針葉樹(マツ・ヒノキ・スギ等)よりも火持ちが良いとされています。
入手した原木は一定サイズに切りそろえた後、縦方向に薪割りし、専用のスペースで1~2年乾燥させます。燃料として使用するには、薪の水分含有量が20%以下になるのが一つの目安になるので、市販の含水率計を用意しておくと便利です。薪を自前で加工するのであれば、薪割り場、薪の保管スペース(薪小屋)なども建築計画に含める必要があります。
補助の暖房を用意しましょう
薪ストーブは、火を入れてから部屋が暖まるまでに30分から2時間程度かかるため、一時的にヒーターなどの補助暖房を使うことがあります。薪が切れてしまった時や、薪ストーブが壊れることも考慮し、普段使う予定がなくても、エアコンや床暖房と組み合わせることをお薦めします。
排煙問題について
一般的に、薪ストーブの排煙は炉内が高温になればなるほど無臭になると言われています。最近の薪ストーブは炉内を高温に保つ様々な工夫がされていますが、それでも火を入れてから炉内が高温になるまで約30分程度は白い煙が立ち上ります。
気を付けたいのは風の方向です。周囲を建物に囲まれている場合、特定の方向に気流が発生することがあるので、ストーブを設置する前に念のため計画地の風向きについて検証することをお薦めします。毎回同じ方向に煙が流れていくと、ご近所の方とトラブルになりかねません。
また、煙突内が汚れていたり、薪が不完全燃焼だったりすると排煙の臭いが強くなります。定期的に煙突掃除やメンテナンスを行う、乾燥した薪を使うなど、近隣の方に迷惑がかからないような行動を心がけましょう。
煙や臭いの少ないペレットストープ
薪ストーブの亜種として、より設置が簡単な「ペレットストーブ」があります。木くず・おがくず・樹皮などを圧縮した「木質ペレット」を燃料にするストーブで、薪ストーブよりも排煙が少ない、排気口の設置が容易といったメリットがあります。一方で、木質ペレットの購入先が限られているため自給自足は楽しめない、電気式の場合は停電時には使えないといった点には注意が必要です。また、機種によってはストーブトップを利用した料理ができない場合があります。
薪ストーブのある住まいの事例
憧れの薪ストーブを設置したお住まいを竣工写真を交えてご紹介します。気になるシーズンごとの薪の集め方や保管方法、実際に薪ストーブと共に暮らしてみた感想などもインタビューしましたので、薪ストーブを導入したい方はぜひ参考になさってください。
施工事例1 リノベーションで薪ストーブを設けた平屋
中古の平屋住宅を購入し、フルリノベーションしたお住まい。薪ストーブ導入のきっかけは、炎の揺らぎによるリラックス効果や薪ストーブに対する憧れ、エアコンの温風が苦手といった理由だそうです。
輻射式の薪ストーブを設置されたLDK。炉台と炉壁は雰囲気のある石張りです。リフォームに際し、床下にコンクリートを流し込み、重量に耐えられるよう補強しています。かなり頑強な補強ですが、通常はピアノを設置する時と同じぐらいの補強で良いそうです。
このように、薪ストーブは壁面から一定の距離をもって設置する必要があります。お施主様は造園業を営まれているため、薪は自前で加工する予定だとか。
古い建具や家具がお好きなお施主様。元々は二間続きの和室が、平屋を活かした勾配天井のレトロモダンなLDKに生まれ変わりました。
施工事例2 大きな吹き抜けに薪ストーブを設けたSE構法の家
一見すると3階建てにも見えますが、こちらは2階建てのお住まいです。高い位置に薪ストーブの煙突が見えますが、煙突の位置を高くすることで排煙のトラブルを回避することができます。
SE構法を採用した大空間LDK。この広さでも、輻射式薪ストーブ1台で2階まで十分暖かいそうです。寧ろのぼせないよう温度を下げることもあるとか。
高い天井を活かしたインテリア。薪は情報掲示板を利用し、地元の方から安価で購入させていただいているそうです。年間で約350kgの消費量。冬の週末の、ちょっとした癒しの時間です。
2階のランドリールームは、煙突からの排熱で洗濯物を乾かすことができる便利なスペース。注文住宅ならではの空間です。天窓を設けているため、洗濯物がない時はサンルームとしても使用できます。
施工事例3 玄関土間に薪ストーブを設置した家
寒さの厳しいエリアでは、薪ストーブの人気も高くなります。このお住まいのある自治体では木質バイオマス資源の活用を広げるため、薪ストーブ・ペレットストーブの購入に補助金を支給しています。
大きな吹き抜けを持つ土間スペースに配置された薪ストーブ。ご友人と歓談しながら、奥様がパンを焼いたり、旦那様がお酒の肴を作ったりと、楽しみ方は様々。
リビングルームに薪ストーブを配置すると暑くなりすぎる可能性があり、敢えて1階土間スペースに配置しました。煙突からの排熱や、吹き抜けを通して循環する暖気によって、1階も2階もぽかぽかと暖まります。
敷地内に薪割り専用のスペースと、薪の収納スペースを設けました。雄大な富士を眺めることもでき、自然を近くに感じます。
施工事例4 薪ストーブと囲炉裏を設けた古民家風の平屋住宅
最近人気の高まっている平屋のお住まいです。
リビングルームの一部を内土間とし、薪ストーブを設置。休日は朝からつけ、平日も夜は薪ストーブのある部屋で過ごされているそうです。「消しても暖かさが続くのでとても快適」「想像した以上に使っている」とのこと。
古民家風、居酒屋風のお住まいを建てたいと思われていたお施主様。薪ストーブのリビングルーム、囲炉裏風のダイニングルームと、和モダンな空間が隣接しています。
庭の一角に薪割りスペースを設けていますが、思った以上に薪ストーブを使うので、薪小屋が欲しくなってきたとのこと。薪はご親戚の方が分けてくださるそうです。
施工事例5 薪ストーブを設置した和洋折衷の住宅
鬼瓦や焼き杉などを用いた純和風の建物。内部はほぼ板張りで、和洋が折衷したモダンな空間となっています。
大空間リビングに薪ストーブを配置しました。縦にも横にも広い空間ですが、薪ストーブを点ければ十分すぎるほど暖かくなるそうです。
ストーブの設置場所は、重さに耐えられるよう基礎からコンクリートを立ち上げ、炉台には石材を敷いています。炉壁にも石材を使用。
冬季は毎日薪ストーブを使われているお施主様。燃料となる薪は、原木を譲ってもらい、自前で加工されているそうです。あまりにも大量に薪を使うため、チェンソーと電動薪割り機を購入されたそう。現在は敷地に大きな薪小屋を作り、2年ピッチで回転するよう貯蓄しています。「労力や手間を考えたら、エアコンの方がずっと安い。けれど、こういう暮らしが好きな人には何ものにも代えがたい」「自前で加工するなら、敷地内に薪小屋は必須」との話。
施工事例6 薪ストーブが大空間を温める家
アウトドアがお好きなご夫婦のための、庭とLDKが大開口で繋がるお住まいです。一つながりの大空間LDKは、用途に応じてロールスクリーン等で空間を仕切るよう計画。この大空間も、薪ストーブ一台で十分暖めることができます。
薪ストーブの奥には一段下がったピットリビングを設けました。竣工後にはプロジェクターを設置し、壁面に映像を投影する予定とのこと。リビングからだけでなく、庭やウッドデッキからも映像を鑑賞することができます。
タイルとシェルフがおしゃれなダイニングキッチン。ダイニングテーブルをキッチンと平行に配置することで、配膳動線が短くなるよう計画しました。キッチンからはリビングと庭を見渡すことができ、お子様の様子を確認しながら家事をすることができます。
外観はグレーの塗り壁でモダンな印象。
お庭の一角に設けた薪棚です。薪はふるさと納税を利用して分割して送ってもらっているそうですが、毎晩薪ストーブに火を入れるので、一か月で棚の3列分ぐらいは消費するのだとか。薪ストーブの保温力は高く、寝る前に消しても起床時まで暖かさが保たれているそうです。また、2階に通した煙突は触れるぐらいの温かさで、部屋を全体的に暖めてくれるとのこと。
もともとアウトドアがお好きなお施主様でしたが、薪ストーブを使うようになってからご自宅で寛ぐ時間が増え、キャンプやアウトドア活動の頻度が少し減ったそうです。ご自宅で火の揺らめきや温かさを感じることができる薪ストーブは、キャンプやバーベキュー好きな方にお薦めです!
施工事例7 薪ストーブを設置した和モダンな平屋リノベーション
平屋住宅のフルリノベーション。LDKに隣接して広々としたウッドデッキを新設し、庭の使い勝手も良くなりました。
複数の空間を纏めて一つに繋げた大空間LDKです。中心部に設置した薪ストーブは住まい全体を暖めてくれるだけでなく、インテリア上の大きなポイントにもなります。薪ストーブの対面にはスタディコーナーを設けました。
ダイニングスペースの上部ロフトは、手摺の腰壁にアンティークの欄間を採用。繊細な細工が生きる、和モダンで華やかな空間となりました。
愛猫が快適に暮らすための工夫も随所に施されています。こちらは和室に隣接する広縁に設けたキャットウォークです。
まとめ◆暮らしを楽しくする薪ストーブ
薪ストーブはインテリアとしての存在感が非常に大きい設備です。部屋に設置した際のイメージを掴むために、モデルハウスや実際に施工した現場を見学して、サイズ感やボリューム感を確認しましょう。
薪の消費量は、設置する部屋の面積やストーブの燃焼方法、ストーブのサイズなどによって異なります。導入を検討している方は、メーカーのショールームで一日にどれぐらいの薪を消費するのかを確認し、暖房費の計算をしてみることをお薦めします。
ボランティアに参加して原木を貰ったり、無料で配布される木材を入手したりできれば燃料費は無料ですし、地域とのつながりも生まれます。薪ストーブは、薪の入手や加工の手間を考えればとても「お得」とは言えませんが、火を起こす、薪を燃やすといった喜びを味わうことができるのが最大のメリットです。