2017年に御殿場にて開業され、2020年には「医療法人社団 晴朗会」を設立された大庭先生。開業後すぐにユニットを追加し、現在は新規の患者さんに数か月間お待ちいただくほど人気のある歯科医院です。 今回は大庭先生に、開業の経緯や進め方、経営者としての取り組みについて詳しくお話を伺いました。
いつ頃、開業を意識され始めましたか?
前の病院に10年勤めて、40歳が近くなって、この後どうしようかなと悩むようになりました。
分かります。40歳はこの後の身の振り方について悩みますよね。
このまま定年まで勤務医を続けるのか、開業するのか。 歯科医の場合、40歳で開業というのは遅い方なんです。融資の返済に20年ぐらいかかるから、開業のボーダーが39歳なんですよね。 内科の先生なら大学病院を定年退職した後でも開業できるけど、歯科でそれはできないから。 だから、僕はかなりスロースタートで……かといって、30代前半の頃に開業して上手く行ったかと言えばそうは思えないので、30代後半というのは僕にとって機が熟した時期、開業するのに適切なタイミングだったと思います。
スロースタートでも、開業まではスパッと行きました。
そう、ロケットスタートでもある。それでも開業すると決めてから準備期間は3年ぐらいかかったのかな。 開業を決めたら会計事務所に勤務する知り合いに相談して、そこから平成建設さんを紹介してもらいました。 平成建設のことはCMで知ってるぐらいで、正直なところ、医療関係の仕事をやっていることは全く知りませんでした。 紹介されてから「ああ、医療関係もやってるのか」と、ホームページの施工例をチェックしたぐらいです。
最初の打ち合わせは……市民会館の会議室でしたね。
あまりそういうところでは打ち合わせをしないので良く覚えています。 ニュートラルな場所なので話しやすかったですね。 打ち合わせの段階では、建物に関して何も具体的なことを考えていなかったんですが、一つ決め手になったのが「どんなものでも僕たちはやります」と言ってくれたこと。 どんなデザインでもできますと。うちはこんな感じですと強く主張しない点が、逆に良いなあと思いました。
ここは以前、林でした。
そう。木が生えていました。 このあたりは自分の小・中学校の校区内なので、だいたいどんな人が住んでいるとか、交通の流れとか、子供のころからそういう情報が頭に入ってて……それが、ここを選んだ一番大きな理由です。 平成建設の営業さんにここを見てもらったら「ここは人が来る!」と太鼓判をいただきました。 「僕は土地を見る目はありますから!」と。もう一つの候補地も見せたんですけど、「あっちよりこっちの方が絶対良いですよ」と言われて。 土地を決めてから、改めてどれぐらいの規模のクリニックにしようか、駐車場をどうしようかと検討を始めましたね。
500㎡使ったらこれぐらい、1000㎡使ったらこれぐらいと、幾つかパターンを作ってお見せしました。
開発行為に当たらない規模の小さいプランも見せてもらったよね。まあ、せっかく土地も広いし、大きく行きましょうということで今のサイズになりました。
建物の建築に5~6か月、土地の造成にも同じぐらいの時間がかかるので、土地が決まってから着工までに1年ぐらいは必要です。 新築するのであれば、少なくとも開業する1年前には土地が決まっている必要がありますね。
とはいえ、開発申請の待ち時間を使って建物のことを細かく決めていったので、時間が無駄になったわけではありませんでしたね。
建物に対するこだわりはどこでしょう?
開業して最低でも20年は経営するわけだから、後悔するようなクリニックは作りたくなかったんですね。 壁紙ぐらいは途中で変えることもあるかもしれないけれど、大きなところは変更できないから。 建物は医院の看板であり、広告でもあるので、見た目が恰好いいと思えるものを作りたいと思いました。
まず、待合室の天井の高さ。ここにはこだわりました。 それと、四角い窓が並んでるような見た目が好きだったので取り入れてもらって…… 前職の病院は高齢者施設が併設されていて、車椅子の患者さんに馴染みがあったので、車椅子で来る人を想定してスロープを設けたり、動線にゆとりを持たせたりしています。 ユニットも大きくとっていますね。
ユニットのブースは一般的なサイズより50cmぐらい広く、かなりゆとりがあります。
土地の広さを活かしましたね。
間隔が開いていると開放感があって、歯医者の怖いイメージが緩和される気がします。 スタッフと患者さんの動線が分離したクリニックの場合、誰にも会わずに移動できるんですが、その分通路が狭くなってしまうし、閉塞感もある。 僕の建てる医院はその逆が良いなと思ったんですね。 患者さんもスタッフも医師も、オープンに繋がる空間が良いなと思って。 診療科目や患者層、立地によってはプライベート感が重視されることもあると思いますが、ここではある種の社交場なので(笑)。
待合室で患者さん同士が何十年ぶりに会ったとかで盛り上がっているんですよね。 それが診察室にいる僕にも聞こえてくる。でも、それでいいと思うんです。 都会では良くないかもしれないけれど……ここは患者さんも皆知り合いみたいなものですから。
勤務医を続けながら開業の準備を進めるのは、大変ではありませんでしたか?
全然。楽しくやれてました。もう検討することは終わっていて、あとは計画に合わせて決めていくだけですから!
開業の直前は少しナーバスになっていたかもしれません。 紙面上で具体的な金額は決まっていたけれど、実際に融資を受けると「どうしよう……」っていうのはありましたね。 「本当に返せるのかな? 大丈夫かな?」って。
個人で背負うには大きい金額ですからね。ちなみに、リースは使われなかったんですか?
リースは使いませんでした。 リースって、リース終わっても自分のものにならないでしょう。それだったら借金した方が良いというのが僕のスタンスです。
開業後に苦労するのは集患なんですが、大庭先生はそういう苦労はあまりありませんでしたね。
ここは目立つし、看板や見学会の告知を早めに張り出したのも良かったんでしょうね。 開業後に苦労したことといえば、間違いなく労務管理です。最初の2~3か月は自分でやろうとしたものの、明らかに無理だったのですぐに社労士さんにお願いしました。 タイムカードの管理とか、給料計算とか、保険関係……
残業とか有給の処理は難しいですからね。
本当に僕……事務仕事が嫌いで、治療だけしていたいんですよ。だから本当に社労士さん様様です。
月に数万円かかってしまいますけど、費用対効果は凄くいいと思います。 そこは必要なコストと割り切ってアウトソーシングした方が絶対に良いですね。治療の質を上げることにも繋がります。
今、集患以外でドクターが苦労することと言えば、採用ですね。新規クリニックで募集しても、全然人が集まらないんです。
うちはスタッフ3人で始めたんですけど、開業後に増えたメンバーはみんな紹介なんですよ。 逆に言えば、今いる人たちが「友達を連れてきても良いな」と思えるような医院にならないといけないと思っています。
僕が常に言っているのは「患者さんはスタッフに会いに来る。僕はその合間に治しに行く先生」ってこと。 患者さんは治療に来るけれど、治療は2割で、その他8割はお喋りするために来ていることもある。 かと言って、僕がお喋りに付き合ってると治療が回らないので、そこはスタッフさんにお任せしています。 治療と全然関係ないことでもなんでもいいから、とにかくお喋りしてきてと。
スタッフさんの会話スキルが高くないとできませんね。
そうですね。 技術は教えられるけどトークは教えられないから、わんちゃんとかお孫さんの話、そういうのを聞いてあげてくださいと。 患者さんによってはスタッフさんがメインで、僕の方がオマケだったりします。 患者さんの満足度というのは、治療だけでなくてそういう所にもあると思っています。
優秀なスタッフさんを留めておくためのポイントは何でしょうか?
とりあえず、怖いドクターは絶対に駄目だと思います。 ドクターがスタッフに怒鳴っていたら患者さんも委縮しますよね。 話しやすい雰囲気が大事。スタッフ同士も、スタッフと僕も、お互いに。
僕一人じゃ絶対に医院の経営はできない。 だからスタッフさんのことは、従業員ではなく共同経営者みたいに思っているんです。 福利厚生に関して細かい点を挙げると、例えばスタッフさんのお弁当代は医院で負担しています。 開業の時に「旦那や子供のお弁当は良いけど、自分のお弁当はつくりたくない!」「先生、出して!」って言われたから(笑)。 お弁当がどうのこうのという話ではなく、何をして欲しいのかを気軽に言い合える関係が大事だということですね。
スタッフさんが働けなくなった時の保険にも入ってます。 うちは歯科医師国保だから、働けなくなってクリニックに来れなくなった場合、保障が出ないんですよね。傷病見舞金とか……
厚生年金とは少し違う。
違いますね。社労士さんに教えてもらって、スタッフさんには長く働いて欲しい、お互いにとって良い職場にしたいという想いがあって加入しました。
先生はプランを信用して、色々なことを素早く決めてくださいました。
大体、自分がこういう風にやりたいって分かっていましたからね。 良く分からないモノは「平成建設さんのお薦めは? じゃあそれで!」って(笑)。
開業前には、物凄く沢山のことを決めなければいけなかったんですが、僕の中で「それが患者さんに関係することならばこだわる」「それ以外はお任せで良い」という判断基準があるんです。 土地が決まって開発の申請が通った瞬間に「新規開業のお知らせを出して」ってお願いして、見学会が決まってからは、ここのガラス面に大きく「いついつ見学会をやりますよってお知らせを作ってほしい」ってお願いして。
動線を広くするのも、スロープを付けるのも、天井を高くするのも全部患者さんのため。そして患者さんに愛される医院にするために、僕が決めなければならないことだと思っていました。 逆に、それ以外はそんなにこだわらなくていいことだと。
普段、あまりドクターから告知についてお願いされないんですが、大庭先生は経営に関する感度がとても高いのだなと思いました。
ここの窓もね、外から見るとブラインド越しに人が座っているのが見えるんです。 そうすると、「ああ人が入ってるな、評判の良い歯医者なのかな」と思うじゃないですか(笑)。
確かに!(笑)
大庭先生は2020年に法人化されましたが、それによって何か変わったことはありますか?
僕が給料制になったこと、あとは経費の処理が変わったぐらいかな。
当院ではそれなりの人数、障がいのある患者さんを診ているんですが、障がいのある方は環境を変えるとまたゼロから……治療できるようになるまで、凄く時間が掛かってしまうんですね。 法人化することで経営を安定化させて、ここをずっと続けていきたい、皆さんが安心して長く通えるクリニックにしたいという想いがあります。
開業後に一番良かったと感じたのは、「開業してくれて良かった」と患者さんに言われること。 歯の治療は誰にとっても嫌なことじゃないですか。痛くて痛くて、我慢できなくなって、ようやく来るみたいな……
嫌なこと(治療)をされて、お金もかかって、それでも「ありがとう」って言ってもらえるのは凄いことだと思っています。
開業以来、本当に良い患者さんばかりで有難いです。 現在、新規の患者さんは数か月待ちになってしまっていて……とても心苦しいのですが、数か月待ってでも来たいと思ってくださっているのはとても光栄に思います。
静岡県立沼津東高等学校、神奈川歯科大学を卒業後、神奈川、静岡にて修行。地域の中核病院にて歯科を立ち上げ、10年以上責任者として勤務。 平成29年11月、御殿場市萩原にておおば歯科開院。令和2年、医療法人社団晴朗会を設立。
「おおば歯科」様 公式サイト