お気に入りの「温泉」 | 藤沢SHOWROOM通信 -平成建設藤沢支店ブログ-
雑記

お気に入りの「温泉」

まずは建設中の木造住宅からの進捗報告です。

家を構成する部材は数えたことはないですが自動車でおよそ二万点程度とよく聞きますからおそらく数万単位に上ると思います。それを毎回異なる敷地で一品生産するわけですから、現場の複雑さは並大抵ではありません。部材の種類だけでも数百に及ぶでしょう。その中でも住まい手のこだわりは一番表面の仕上げになる床や壁の材料に向けられがちです。もちろんその重要性はもっともなのですが、案外見落とされがちなのが材料の端部を縁取る部材の如何です。たとえば、床と壁の接点にあたる巾木と呼ばれる部材や窓と壁が接する部分の窓枠であったりがどのような扱いをうけているかでその部屋に入った時の空間の印象は大きく左右されます。

キャプチャ2

写真は玄関ポーチの壁柱の足元、このあと仕上げには奥様がお気に入りのレンガ調のタイルが貼られるのですが、その前に壁の最下端に水切りと呼ばれるダークブラウン色の材料がぐるりと水平に回されています。壁の一番地面に近い部分は大きな外壁を伝ってくる雨が降り注ぎ、また地面からの跳ね返しも受け材料が劣化しやすくなります。そのため速やかに水の流れをつくる勾配を持ち耐候性高い部材が水切りなのです。そのほかにも床下への鼠の侵入を防いだり壁の通気を確保したりなどケースバイケースでいろんな形状のものがありますが、出隅の部分の加工や横方向の材料のつなぎ目に施工者の技量や姿勢が垣間見れます。写真でどこまで伝わるか、とても丁寧に製作されており感心しました。後工程のタイルもきっとこれで映えることだろうなと見受けられました。

 

キャプチャ06

それでは前回に引き続き、年末年始での北陸めぐりからの報告です。

石川県加賀市にある片山津温泉総湯。

総湯というと温泉街にある大き目の外湯を指すんだろうなというぐらいの印象でしたが、北陸にのみ残っている呼称だそうです。片山津温泉は柴山潟というもともとの海が砂丘に隔てられできた湖の底から湧く温泉で、水面に群れている水鳥が発見の端緒だったとか。潟の水害対策で明治に開拓されてその利用が可能となり北陸で有数の温泉街が生まれました。

訪問したのはすでに夕暮れを過ぎていましたが、観光向けでなく地元に住む一般の方々が利用されているため遅い時間帯まで営業されています、とても暗いけど、、きっと来られるのは馴染みの方々ばかりだから勝手はご存知なんでしょうね。小雨の中、籠を片手に提げてあちらこちらからひっきりなしに訪れる影がみえます。昔東大寺の二月堂のお水取りに向かう夜道があまりに真っ暗な中勝手知ったる訪問者があちらこちら脇道から現れてくるのを不思議な想いで眺めていたのを思い返しました。

キャプチャ04

この温泉は男湯と女湯で眺める景色が180度方向が異なり、ひとつは目前に広がる水面のパノラマに、もうひとつは小高く盛られた森に向けられています。そのため日替わりで男湯と女湯が入れ替わります。幸い滞在が翌日まででしたから初日は森の湯を、翌日は潟の湯が体験できました。景色は入れ替わるのですが、浴室の間取りはほぼ同じです。ホッチキスの片方の針を天地逆転させた形状、もしくは平面を90度回転させると卍の字になるといえばなんとなく伝わるでしょうか。二つの湯船を囲うコンクリート打ち放しのボックスは、エントランスを覆う二枚のガラスの衝立を突き破るように配置されています。図式としては設計者谷口吉生氏の過去の実作である葛西臨海公園展望台と資生堂アートハウスを掛け合わせた風ではありますが特異な点は、

キャプチャ02

潟の湯の屋上部に設けられたテラスから潟を見下ろすときの高揚感、

キャプチャ01

ガラスの外壁に映り込む空の移ろう変化、そして潟の湯に浸かりながら眺めるじ~っと浮かぶ水鳥の群れ、森の湯の湯船に映り込み浮かぶ木々の揺れ、それらを身体に刷り込んでいくうちに人は半分鳥になるのだとしたら、束の間だとしても。