稼働中の在来軸組木造住宅の現場も、壁の断熱を終え下地のプラスターボードが搬入されました。冬の日差しは斜めから深く室内へ差し込み資材の積層を照らしています。ゆくゆく窓辺に置かれることになるテーブルの上でもふと目を留めたくなる穏やかな時間が展開していくのだろうなと期待しつつ進捗を見守ります。
今年も昨年に引き続き平成建設藤沢ショールームにまつわる身近な生活を通して、お気に入りに潜むデザインの秘訣を紹介して参ります。どうぞよろしくお付き合いお願いいたします。
さて今日のお気に入りは「喫茶店」です。
世の中にはたくさん喫茶店があるのでみなさんもそれぞれお気に入りのお店がありますか?以前別のブログで鎌倉市役所前にある横山隆一さん(フクちゃん作者)の自宅跡に建つカフェを紹介したことがありました。先日再訪すると机の配置が随分と変わっていてちょっと長居しづらくなったのですが、小さなプールサイドの脇の藤が咲く季節が待ち遠しく思います。どんな目的でいくのかにも選ぶ喫茶店の選択は変わるのでしょう。私は持参した本を結局読まずになんとなく無為に過ごしたりすることが多い気がします。
冒頭の写真、石川県加賀市片山津温泉の柴山潟の一枚です。以前より気になっていた二つの建物が北陸に近接してあり、年末年始で探訪することができました。そのうちの一つが今回紹介する「喫茶店」です。
フランス語で冬木立を意味するHiver bosque(イヴェール・ボスケ)という名の洋菓子店兼カフェ。加賀市宮地町、周囲には民家の気配どころか納屋すら視界に入らないゆるやかな起伏の山間のなか霊峰白山を遠望できる好立地にあります。店内にはテイクアウトコーナーとその奥にカフェコーナー、大小のスケールをもつ様々なルームをひとつの大屋根のもとに結晶させたのは住宅設計で定評のある堀部安嗣氏。建設前は水も電気もない原野、立っていた大きなくるみの樹にほれ込んでオーナーシェフはこの地を選んだとのこと、シンプルな方形屋根の平屋建物は木々と適度な距離を保ち互いにその存在を尊重しながら配置されています。あいにく店内は過ごされる方々への配慮で写真撮影不可でしたが、この主人のはからいは周囲の客人以上に実は撮影を禁止された当人により効果があるのではないかと感じました。写真を撮らないことでこの場所での一期一会を貴重に思う姿勢となり過ごす時間をより豊かにしてくれたように思えます。まるで茶会に招かれたようですね。
一辺3間四方の喫茶スペースの天井高さは2100mm、床高がその他の店内より400mmほど上がっています。家具はナラ材の四人掛けの丸テーブルが二つと二人掛けの角テーブルが三つ、木目の肌理細やかなピーラー材のベニヤを天井は生地で壁は黒塗装であえてマットなベタ塗で存在感を消しコーナーに開いた窓に広がる視界の邪魔にならぬよう思慮されています。くるみの木となだらかに谷間に傾斜していく地平と刻々と多様な変化をみせる冬の曇天が深く低い軒の水平線に縁取られ重心を低くします。主人の狙いかどうかは分かりませんが、移ろいのなかに身を置くことでその場所にいる自身の有り様を一歩引いて眺められたような。飲み物や食べ物や覆いの豊かさは違和感を持たせないほど純度の高い透明性にあり、その結果普段見落としがちな身近な存在に働く浮力、季節を違えて再訪したくなりました。
イヴェール・ボスケより自転車で15分程にある二つ目の建物、片山津温泉総湯は次回の紹介です。