雑記

お気に入りの「はらっぱ」

たまたま代々木公園付近を通りすがると、怪しげな青にケヤキ並木がライトアップされておりました、年の瀬ですね。

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施工中の住宅の案件も、内部の天井にかかり部屋の拡がりが掴めるようになってきました。工事中の現場は下地の桟を組み合わせた状態の時が一番狭く感じます。視覚的には遮るものがなく天井裏や隣の部屋が広く見通せる状態ですが、組みあがった壁の下地に板を貼り壁紙を仕上げた後のほうが実際のスケールが感じられ、図面で描いていた感覚が腑に落ちてきます。さらに家具が入りサイズの比較ができると一段身体に馴染んでき、空間とは身に纏う衣服のようなものですね。沈みかけの月が大きく感じられたりするのも地平線近くの建造物との比較による、そんな感覚に近いのかもしれません。工事途中の現場に出向かれた建て主の皆さん、思っていた広さとちょっと違うなという時、ぐっと想像力を膨らませて今後の生活を描いていただくと少し不安も和らぐのではないかと。建設途中の成長を感じとるまたとない機会との心持ちでいらしていただくと、大工さんたちの活き活きとしたものづくりの喜びが伝染するやも、どうぞお気をつけください。

 

さてよくよく天井を眺めていると桟として組まれている野縁という材料には、太いところと細いところがあり板と板の継ぎ目のところには幅の広い材が使われています。大工さん曰く一見真っ平らに組まれている天井の桟ですが実は部屋の真ん中を3、4mm程度部屋の広さにもよるのでしょうが気持ち少しむくらせて(上側に凸型にふくらんで)いるとのこと。そうすることで光が天井面に当たった時に微妙な影が出づらく仕上がりがきれいに見えるんですって。美しく見えるには理由があって気づかれない配慮があってこそなのだと感心した次第です。

 

では今回のお気に入りの紹介です。

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「はらっぱ」です。

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荻窪駅からバスで6,7分行くと大宮前体育館があります(海はありません。)一年半ほど前にオープンした際話題の建物でした。旧荻窪小学校跡地を利用した複合スポーツ施設です。バドミントンや卓球ができる体育館、プール、トレーニングルーム、武道場などから構成されています。住宅街の中心にあり巨大なヴォリュームを地下に埋めほぼ平屋建て(一部屋外運動広場に出る塔屋あり)としています。小学校があったころからと比較するとずいぶん風通しがよくなったことでしょうか。民間のスポーツジムに行くことを考えると料金もお手頃なのか、祝日の夕方ひっきりなしに訪れる利用者がありました。平面は二つの大小の楕円形が並ぶかたちで一見金沢にある21世紀美術館を連想させますが、空間が醸し出す性格はずいぶんと異なる印象でした。絵本のぐりとぐらの中に朝ごはんははらっぱでというシーンがあり、かつてそのイメージを原風景として庭と住まいの関係を家づくりに生かしたことがあります。住まいの中心を室内ではなく屋外におくことでより広い視野のなかで家の建ち方を捉まえることができるのではと考えてのことでした。はらっぱということばには、たとえば公園の中で休憩スペースとして準備された藤棚下のベンチではなく、何かの用途を限定しているわけではないですがごろんと横になれたりフリスビーをできたりする、多少傾斜がついていたって問題ないけれど行為に支障がないよう雑草の凹凸はなだらかに維持されている、そんなスペースのことを指したりします。大宮前体育館の屋上には視覚的なイメージとしてのはらっぱが多目的な運動スペースとして準備されているのですが、そこはそれほどはらっぱ感はなくそれ以外の例えば、、

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地下に埋もれているプールを見下ろせるガラス面を通りすがりの親子が見下ろして眺めているシーンや

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二つの楕円形の建物の間に生まれる敷地内通路を近所の子供たちが自転車で通り抜けていく様や、

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建物への搬出入を行うサービス動線や倉庫があるバックヤードが夕暮れ時ライトアップされる光景、

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仮設的に配置された駐車場や入口への誘導標識
 
などに、なぜか「はらっぱ」が漂います。
 
敷地と敷地外との関係性に序列をつけることなくフラットに一度並べてみてその性格の違いによりどんなしぐさや表情をすればよいのか、ものづくりの現場においてぎりぎりまで判断を保留し計画性ではないものに優先順位を置く、だからこその臨場感があることに気づきます。実際のところは現場の状況を知る由もないので分かりませんが、設計者の青木淳氏がよくオーバードライブということばで指し示そうとする感覚をここではただで味わえる、建築文化とはなんと自由なものなんでしょう。