雑記

お気に入りの「文化会館」

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今月三日は文化の日、国民の祝日に関する法律によると「自由と平和を愛し、文化をすすめる日」と定義されているそうです。神奈川県立近代美術館はこの日を無料開館日としており何年か続けて訪れています。3つの分館で構成されていた神奈川県立近代美術館はそのうちの鎌倉館が今年の初めに閉館となりましたが、中庭にあったイサム・ノグチの彫刻作品「こけし」は訪れた当時の私たちの記憶と共に葉山館に移設されひと安心。今年の展示は葉山館では坂倉新平氏、鎌倉別館では松本竣介氏の特集があり、どちらも見ごたえのある油彩画を堪能できます。坂倉氏の‘内なる光’と題された連作にかつて旅の途上でみた光景をキャンバスへ定着させようとした彼の試みを辿ることで私たちの内面に普遍化された光の発現が生じそれはいつか私たちがみたあの光景も同様に再現可能ではないか実際ありえないと知りつつも覚える際限も根拠も無い淡い希望を抱かせ、松本氏の創作の原点を探る展示からは出世作の《立てる像》には第29回二科展に同時出品された《小児像》という不可解な作品があり、現存しないため当時のポストカードの写真からしか窺えないながらもその静謐な不穏さに画家の汲み取られずに残る真意の寄る辺なさを嗅ぎとりながら、閑話休題。

今回ご紹介するのは、お気に入りの「文化会館」です。

平成建設には私が所属している藤沢支店の他に、首都圏では厚木支店、日野支店、世田谷支店があり、月ごとの会議では規模が大きい厚木支店に集合します。その訪問の度に素晴らしいなと感心するのが、隣敷地にある厚木文化会館のたたずまいです。

文化会館というと、その街の主要な位置にある公共施設として著名な建築家が設計をし、各種コンサートなどのイベントが行われる大きなホールがあったりしますが、いわゆる劇場空間として市民活動などの発表の場にもなったりします。建築として有名なものでは上野の東京文化会館や旧京都会館(現在はロームシアター京都としてリニューアルオープン)があり、どちらも建築家の前川國男氏が設計に携わり近代の名建築として私自身も感銘を受けた建物です。

小田急本厚木駅から南西方向に延びる道を15分ほど歩くと遠目でも目を引く赤いレンガ仕上げの外壁が厚木市文化会館、その設計は1978年当時日建設計に所属した櫻井潔氏が担当しています。形態はいたってシンプルなキューブ状、かと思いきや東アプローチ面から時計回りに南エントランス側に廻り込むにつれ広がる箱に穿たれた大きな門型の開口があり、えぐられた穴は街区の対角斜め方向に連続することでくぐり抜けてきた来館者の視界に丹沢山の借景をバランスよく配置する効果を高めています。エントランス前の水盤がある中庭は、床からベンチから何から何まで外壁レンガと同系色の石やタイルなどの素材で構成されています。一面赤茶に染まるスペースを取り囲むよう配置された樹木の緑と空の青とのコントランスがなぜか自由と平和を連想させるのは、40年近く継続して市民に健全に活用されている空気の厚みによるのでしょうか。

昨今では文化会館と呼ばれる仰々しさが利用者の求めるソフトにそぐわないこともあり、新しいかたちの公共施設の在り方が模索されています。たとえば新潟市民芸術文化会館(通称りゅーとぴあ)は、日本で初めて劇場専属舞踏団を抱え長期的なスパンで世界に向けて新しいダンスシーンを発信する場として2004年より活動を継続しています。中心-周辺という関係性のもとではない、その場所その人々が世界の中心に立ち得ている文化の好事例だと感じます。

赤御影のベンチに座り水盤を眺めながら自ら所属する場所のたまたま隣にあるものが、豊かな文化を有していることの思いがけないありがたみを感じつつ、同様に厚木文化会館に訪れた人々がたまたま目に付いた平成建設にふと惹かれ訪れたくなるような、そんな企業文化を育んでいきたいものです。

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