皆さま、こんにちは。
平成建設の藤沢支店設計課の長野です。今回より当ブログに寄稿します。
自身の「お気に入りの○○」を紹介していきながら、いごこちのよい住まいづくりのヒントをご一緒に発見できたらなと目論んでおります。ぜひご一読してみてください。
それでは初回の○○は、「お気に入りの場所」です。
こちらは平成建設藤沢支店ショールーム1階打合せコーナーのワンカットです。
対面するソファと同色の鉄骨階段、背面の白い壁を照らす陽光と硝子越しのシンボルツリー。写真では少し圧迫感があるようにも見えますが、天井高2160㎜、床の間口と奥行きはほぼ3000㎜角の正方形。
ショールームにこられたお客様や取引業者様がまず案内されるのは実はこの場所ではなくて、壁を隔てて隣にある平成建設自慢の大工造作による無垢材をふんだんに利用したメインスペースのほうになります。階段踊り場下の空きスペースを有効活用したこちらはサブとしての利用のされ方をしています。
それほど特別なところがなさそうなこの場所をなぜ私は気に入っているんでしょうね?よくよく眺めて特徴的なところをピックアップしてみます。
その①:コンパクトな部屋なため、スペースに対してのガラス面の割合が大きい。
その②:交通量の多い幹線道路ぞいに設けられた外部の緑地帯が硝子越しに間近に眺められる。
その③:階段踊り場が丸い平面形状であるため、壁面・窓面がそこで止まらず立上っている。
その④:部屋の形が正方形でかつ天井高さが抑えられているため、部屋の重心が低い。
その⑤:もともとその利用のために作られた場所ではないことで生まれる解放感がある。
これらの特徴が持つ魅力を私なりに解読してみます。
解読①:もののサイズが組み合わさる時の割合(プロポーション)の問題。たとえばショールームでみたステンレス製の立派なアイランドキッチンを気に入っていざ我が家にと採用になったが、ショールームの広いスペースでよく見えたものが、住宅に入った途端ほかの要素のスケール感とのアンバランスにがっかりといった事例があるとしたら、今回は逆によい事例です。部屋のサイズからすれば不必要なぐらいの圧倒的な光の硝子面があることで起きる現象、いつも過ごしている世界とは少しだけ異なる素朴な新鮮さがここにあります。
解読②:変化の多い自然から生身の身体を守ることが建物の主要な目的なわけですから、その自然によって騒音・排ガスといった交通が誘発するマイナス要因が緩衝させられている状況は逆説的です。ガラス越しで守られているからこそ可能となる安全地帯から他者へ向かう至近距離での眺め。
解読③:壁が壁らしくあるためには垂直に向かう伸びやかさを演出してあげたいものです。四角い箱と丸い階段の間の余白の隙間が吹抜け効果を出しています。子供の成長を見守るように、その存在が生き生きといられる環境の整備は大人の役割です。ガラスの天井など本当はないはずなのですから。
解読④:かつて建築を志したばかりの頃に愛読して以来かれこれ20年以上となる「吉村順三住宅作法」の中に、正方形の平面形状の部屋が居心地良いのは部屋の重心が把握しやすいからといったことが書かれてあります。部屋の重心とは、数学的な意味での重心に限定されない心理的な意味もあるとのことでしたが、この言葉では分かったようでで分からない感覚を、今回ブログで紹介しようと思いたったこのスペースを採寸してみて、なんだ正方形じゃないか!と初めて腑に落ちた気がします。
解読⑤:おそらくキッズコーナーなんかに利用しても子供が喜びそうですね。この建物は以前車関係のショールームだったことがあるとのこと、きっと当時は別の使われ方をしていたことでしょう。建築家の青木淳さんがロンドンのテートモダンの魅力を紹介する際に、その場所がもともとギャラリーとして作られた場所ではなく発電所だったことに因るところが大きいといった趣旨のことを述べておられます。良質の小説はその書き手の意図を越えて成長していくように、先にありきの枠組みに向けて積み上げる行程では辿り着けない地平がこの先にあるのだという予感。期待しすぎ?
なにはともあれお近くに来れらた際は、平成建設藤沢支店ショールームにお立ち寄りいただき身体感覚を刺激するこのスペースを体感してみてください!皆さまそれぞれのまた違った発見がきっとあることでしょう。